株式会社 河野製作所

CROWNJUN
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平成24年2月22日(水) 日刊工業新聞
  突撃!探検隊
 記者が見た現場
  17 医療用微細針かしめ作業

あれっ楽ちん?ぐにゃ…

女性が指先でつまんでいるのは、シャープペンシルの芯を半分に折ったくらいの針。そっと機械に差し込むと、ウィーンという音とともに穴が開く。縫い針のように開けるのではない。直径0.55_bの針の頭に、縦に直径0.35_m深さ1.8_bの穴を掘るのだ。この髪の毛2本分の穴に外科手術用の縫合糸を固定する。生身の肉体に開ける穴を最小限にするため、医療用の針は糸を後ろにつける。
きょうは医療用縫合糸付き極小針を製造する河野製作所(千葉県市川市)におじゃました。ドリルマシンはどこの町工場にもあるが、こちらの機械はドリルが目に見えない。加工部を拡大した液晶画面では、細かいオイルミストを浴びながらドリルが細かい往復運動で徐々に穴を開けている。熱による硬化を防ぎ、切り粉をスムーズに排出するノウハウだ。
すごいなー、と見ていたら、この道7年のドリルの神様、粕谷真樹子さんが「やってみる?」とにこやかに針を差しだしてきた。え?
恐る恐る針を持ち、機械に差し込み、奥のガイドに当たったらペダルを踏む。すると針が固定されて、あとは自動で穴が開いた、楽ちんだ。ドリルの回転速度や摩耗にい合わせて送りのスピードや位置を調節するノウハウはやはり神様にかなわないが、とりあえず穴を開けることは私にもできるようだ。昔は拡大鏡が頼りの職人の世界だったけれど「大きい画面で見られるようになって位置決めが楽になったのよ」と神様が言う。
ただし、この針は河野製作所では大きい方に入る。次に挑戦する針は、直径が髪の毛の半分ほどの0.065_bしかない。のぞいた顕微鏡の先で、ピンセットでつかんだ針が震えている。

微細作業支える女性の熱意

2本目でクリア
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直径0.065_bの針はマイクロサージャリーと呼ばれる顕微鏡で見ながら血管を縫合するといった手術で使われる。単位を変えれば65マイクロb(マイクロは100万分の1)。河野製作所はマイクロサージャリー用で国内シェア約60%。このうち直径30マイクロ-70マイクロbのマイクロ針はほぼ全量を供給している。こんな針を使う医者もすごいが、作る河野製作所もすごい。加工作業にも、当然、顕微鏡を使う。「目の前にくぼみは見えますか?」と先生役の加藤大二郎さん。
顕微鏡をのぞくと金属の台座に何本かのくぼみが切ってあるのが見える。「そこに針をまっすぐに差し込んだら、ペダルを踏んで。上から三角の部品を押しつけて溝をつけます。」プレス加工というわけだが、理屈が分かっても針をくぼみに置こうとすると、クルクル回ってしまう。そもそもつかんでいる感覚がない。力を込めすぎて、手がつりそうだ。片方の指を添えてピンセットを固定。針がまっすぐになった一瞬を狙ってペダルを踏む。ぐにゃっ。曲がってしまった。2本目に挑戦。顕微鏡をのぞいた加藤さんに「…うん、大丈夫です」とOKをいただいた。

匠の技の装置化

実は加藤さんも、また入社3年目。同社も以前は、職人の技と勘に頼って極小針を作り上げていた。しかし10年ほど前から徐々に職人が退職し始め、匠の技の装置化に乗り出した。装置のほか工具も自社設計して「ある程度器用な人ならできる」(河野淳一社長)体制を作り上げた。
マイクロ針は日本とスイスの数社しか作る技術を持たない。スイスのメーカーは米国に買収され事業規模を拡大する傾向にあるという。医療機器は欧米が圧倒的に強いと言われるなか、河野製作所は「クラウンジュン」ブランドで海外展開を本格化している。まず中国で販売を始め、欧州や東南アジアでも認可取得を待つ段階だ。河野社長は「海外で利益を上げ国内の開発に回すサイクルを作りたい。うちに出来るなら、ほかにも優れた技術を持つ会社はたくさんある」と日本代表の心境を話す。

ゆるむ頬

日本のモノづくりは現場の女性の熱意と責任感に支えられている、と河野社長。私も引き続き、マイクロ針に糸をかしめる作業に挑戦。ピンセットで溝の幅を少し挟めたら、針の半分ほどの太さのナイロン糸をはめ込む。左手で針を、右でで糸をつまむ。溝が横向きになるように、左手を-。ん?針を飛ばしてしまった。新しい針で再挑戦。針を移動させ、入った!と思った瞬間、すかさず右手のピンセットで溝を挟んで必死に閉じる。なんとか形になった。
「研修でもこんな短時間でこれだけできる人はいませんよ」という加藤先生の言葉に、思わず頬もゆるむ。次の体験でもドヤ顔みせるぞー!

政年 佐貴恵記者(まさとし・さきえ)

前回、機械式腕時計の組み立て体験を一発で決め、上司に「できてどうする。場の雰囲気を読め」としかられた器用な30歳、科学技術部。

(カメラ 編集委員・田山浩一)

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