株式会社 河野製作所

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東京医科歯科医師協同組合 TMDC MATE 2012年(平成24年)9月号
   Doctor Management

 ドクターの熱意から生まれた、世界最小の「超微細手術用針付き糸」

株式会社河野製作所

代表取締役社長

河野淳一さん

プロフィール

1963年生まれ。千葉県市川市出身。

88年青山学院大学経営学部卒業後、

千代田火災海上保険入社。

91年9月河野製作所入社。

98年12月河野製作所・代表取締役就任。現在に至る。

  微細手術用針で世界トップクラスの品質を誇る医療機器の専門メーカー、河野製作所の河野社長に、「超微細手術用針付き糸」の開発経緯や今後の展開についてお話をうかがいました。

現場のニーズを反映した実用的な製品群を供給

 時計工場の技術者であった創業者が独立を果たし、当社を設立したのは1949年のこと。その数年後、精巧かつ微細な時計部品の製造を請け負っていた当社の技術力に対する評判を聞きつけたドクターが「こういうものは作れないだろうか」と、手術用針糸製造の話を持ち込んできたのが、医療分野へ進出するきっかけとなりました。ちょうど、医療技術の発展が顕著となり、マイクロサージャリーが登場して間もない頃のこと。そんな時代背景のなか、私たちは全国の病院を隈なく回り、多くの先生方との情報交換に努めながら、当社の技術力をアピールしていったのです。その結果、新しい技術や機器に高い関心を持っていたドクターを中心に需要が高まっていき、以来、長期間に渡って培ってきたドクターとのネットワークを生かし、現場のニーズを反映した実用的な製品群を供給し続けてきました。現在では、マイクロサージャリー分野のパイオニアとして認知いただくまでに至ったのですが、技術開発型のベンチャー企業として常にチャレンジ精神を持ち、まったく新しい術法や治療法に基づいた製品開発に携わっていきたいと考えています。

世界最小となる「超微細手術用針付き糸」

 直径30ミクロン、長さ0.8ミリの針を成形し、直径11ミクロンのナイロン糸をつなげた世界最小の「超微細手術用針付き糸」も、そんな当社の基本姿勢の中から生まれたもの。それまでのマイクロサージャリーでは、500ミクロン以下の血管を縫合することは不可能だというのが常識だったのですが、あるドクターから「細胞操作が可能となる50ミクロンから500ミクロンまでの領域は、現在どんな手術もできない空白部分となっている。それを埋めることのできる器具と術法を確立したい」というお話を聞きました。もちろん、前例のないことですし、当社の技術者の中にも「絶対無理だ」という声が上がったのも確か。しかし、ドクターの熱意に共鳴し、何よりも「パイオニアを自負する当社がやらなくて、誰がやるのだ」という強い思いからスタートしたのでした。ほどなく、顕微鏡メーカーも賛同し、経産省や市など外郭団体を巻き込んでの産官学共同プロジェクトを発足。参加団体の連携がスムーズに機能し、約3年間という短い期間で実用化に至ったのでした。

 もちろん開発段階において、多くの苦難を経験しました。今までの製法や設備では通用せず、工具から器具、検査装置に至るまで、すべて自社においてゼロベースから作らなくてはなりませんでしたし、そもそも、血管の組織を切らなくてはならないので、例え針の直径を30ミクロンにまで細くしたとしても決して曲がってはならないという条件を満足できるような素材探しから始めなくてなりません。ただ物質的に小さいだけではなく、実用に耐えうるもので、なおかつ使用するドクターが使いやすいものでなくてはなりません。かけがえのない命に直結する製品ですから、”万が一”も許されない完全なものを作りださなければなりませんでした。

採算ベースで捉えず少数派にも目を向ける姿勢

 これまで多くの製品をドクターの元にお届けし、ことあるごとに「河野さんのような会社があって本当によかった」と言葉をいただくことが何よりも嬉しいです。どうしても、採算を重視し、「製品化は難しい」とh判断する企業が多い中で、当社は先生方の切実な要求に対し「何年かかっても必ずありとげます」とお答えし、実行してきました。私たちは利益のみを追求する企業ではなく、市場の大小も関係ありません。患者の中には小児や、非常に珍しい病気でお悩みの方もいらっしゃいます。採算ベースで考えていたら、これら少数派の方々を切り捨てることになってしまいます。誰も目を向けようとしない少数派に対しても真摯に向かうこと。そこに、私たちのような中小ベンチャーの存在意義があり、ドクターの志へと直結するのです。私たちの技術を必要とする人がいる限り、それを追求し、医療の発展へと寄与していきたいと思います。

 このようにニッチな業界なので、にほんという枠組みの中だけで考えると難しいのですが、世界に目を向ければ、規模も拡大し、事業としても十分に成立すると思われます。昨年には、当社も中国進出を果たし、世界市場開拓への足固めをしているところです。私たちが目指すのは、あくまでモノづくりのコアな部分を日本国内に保有したまま、海外のドクターとの連携を図りつつ、世界市場で勝負をするということ。私たちのような中小企業であっても、ただ大企業に引っ張られるのではなく、世界という大きな市場の中でブランディングを行い、メーカーとして販売を進めながら、しっかり事業化できるー。そんなモデルケースとなっていければと思っています。

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