株式会社 河野製作所

CROWNJUN
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自由民主 2014年(平成26年)5月20日(火曜日)

 

がんばる日本「世界に誇るMade In Japan」

 株式会社 河野製作所 千葉県市川市

 

  医療器具メーカーとして50年の歴史をもつ(株)河野製作所は、従業員数が約140人と小規模だが、オンリーワンの技術を確立している。2004年に開発した世界最小の糸付き手術針は直径0.5o以下の血管やリンパ管などの縫合を可能にした。将来、本格化する再生医療まで見通せば、その貢献度は計り知れない。特定市場の最先端分野だからこそ高付加価値製品につながるという信念のものづくりだ。

 

外科手術に新次元を開いた世界一細くて小さい手術針

 河野製作所は1949年、計測機用の指針などの部品製造で創業。1960年代半ばに医療用具の分野へ転じた。以来、さまざまな規格の糸付き手術針の開発・製造を手掛ける。なかでもマイクロサージャリー(顕微鏡下で行う外科手術)の分野では国内のパイオニアにして、現在もトップシェアを誇る。直径0.07mm以下の糸付き手術針を作れる国内メーカーは他になく、医療現場には「クラウンジュン」の製品ブランド名で浸透している。

同社の開発力の高さを証明したのは、2004年に販売を開始した手術針だった。「世界で最も細く、最も小さい糸付き縫合針。10年たった今も、これを超えるものは作られていない」と、創業者の孫にあたる河野淳一社長(51)は胸を張る。

 その凄さは数値で一目瞭然だ。針は、直径が0.03mm、長さが0.8mm。付いている糸の直径は0.012mm。肉眼では見えないミクロの世界だ。

 もちろん、単に微小なだけではない。「従来の針と同様、実用の条件を備えていなければならない」と河野社長。たとえば、刺す時に曲がったり組織を傷めたりしないための、十分に鋭い切っ先が必要だ。折れないこと、糸が外れないことも必須の条件。医師がピンセット状の持針器を使って縫合しやすいという形状も加味しなければならない。

 この世界最小の手術針が実用化されたことで、0.5mm以下の血管やリンパ管、神経、筋肉繊維などの縫合ができるようになった。医師の技能レベルが高ければ、0.1mmの血管さえ縫うことが可能だ。

 河野社長は「この最小針によって、マイクロサージャリーが新次元に突入したといっていい。この10年間、国内の数人のドクターが世界の先頭に立って微細手術のレベルアップを図ってきた。特に移植の分野で活用が進んでいる」と話す。

 

開発スタッフ全員が「無理!」と思った

 世界最小の手術針を開発するきっかけは「0.5mmよりも小さい組織の縫合ができるようにならないか」という、先進的な医師の一言だった。それまで0.5mm以下の手術は不可能とされてきた。いくら顕微鏡で拡大したとしても、医師が自らの手で針を動かして縫うには対象があまりに小さい。当然、そういうレベルの手術針はどこにもなかった。

 「その医師は他社にも相談したが、断られていた。ならば、わずかでも医療現場にニーズがある以上、うちがやろう」と河野社長は判断した。

 ところが、それを聞いた同社の開発スタッフは、全員が「無理!」と答えたという。開発の常識をはるかに超えるレベルだったからだ。それに対して、河野社長は「できると思わないでトライしよう」と説得。失敗に終わるかもしれない高度な開発に挑んだのだ。

 

ミクロの世界にアナログの技術

 実際、開発は困難を極めた。高いハードルは二つあった。

 一つは、細い針にどうやって糸を付けるか。従来は、針の切断面にドリルかレーザーで穴を開け、糸を挿し込んで押さえ付ける方法をとってきた。だが、それでは通用しなかった。針が細いため、穴を開けられるドリルの刃が存在せず、レーザーでは、照射量を調節しても金属が溶けてしまったのだ。

 そこで試したのが「チャンネル・カシメ」という接合法だった。針の根元部分に裂け目を作り、糸をはさんで包み込むというもの。パンにソーセージをはさむホットドッグのイメージだ。「これは、ドリルやレーザーで穴開けをするよりも前の時代の方法。おかげで成功できた」と河野社長。古典的な方法を繊細な形でよみがえらせたのだ。

 もう一つのハードルは、素材の針を装置にどうやって固定するかだった。針を曲げたり、糸を付けたりする加工には、針自体の固定が欠かせない。「金属でできた針なのに、毛糸の線維のようにふわふわしている。これの固定方法は本当に難しかった」と、試作品開発当時を河野社長は振り返る。

 結局、実用化の開発成功までに3年を要した。ミクロの世界にアナログの技を結集したゴールだった。

 同社は手術で必要な縫合針の開発に、どれほど困難であっても果敢に挑戦している。しれは、最先端のオンリーワン製品なら、たとえ市場が小さくても付加価値が高いからだ。ライバル企業の登場も心配しなくていい。その代わり、極端な多品種少量生産の宿命を負わねばならない。

 

多品種少量生産に女性の社員を多く活用

 同社は現在、約1万種の規格をそろえている。生産体制に緻密さが求められているからだ。

 そのため、同社では一定の規格ごとに生産工程を標準化するとともに、社員に女性を多く活用している。

 その点について、河野社長は「半年くらいのトレーニングで、一つの工程ならどの規格でも一人前に作業できるように、装置や工具、手順などを整えてある。特に女性は手先が器用で、集中力もあるから成長が速く、大きな戦力になっている」医療用器具という製品の性格上、不良品の混入は許されない。女性ならではの細やかさが品質管理面でも下支えしているという。

 糸付き手術針に特化し、とりわけマイクロサージャリー用では世界トップの技術力をもつ河野製作所。今後は、中国をはじめ東南アジア諸国へ進出する。すでに上海に拠点を設け、現地の医師たちとの情報交換を始めている。「日本のものづくりの凄さを示したい」と河野社長は情熱を燃やす。

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