医療用縫合針・縫合糸メーカーの株式会社 河野製作所 所在地:千葉県市川市曽谷 商品販売会社:クラウンジュン・コウノ CROWNJUN

お知らせ

平成21年2月発行 日経ものづくり
 河野製作所●最先端分野に積極投資
 

 世界同時不況や人件費の高騰などで、中国からの撤退を検討する、あるいは既に撤退した企業が増えている。そうした中、医療器具メーカーである河野製作所は、年間売上高の約1/3(約3億円)を投じて国内に工場を新設した上で、満を持して中国に進出しようとしている。「技術開発型ベンチャー企業」(同社代表取締役社長の河野淳一氏)を標榜する同社にとって、これから本格的な医療の発展が見込める中国は、宝の山に映るという。

  最先端分野に率先して投資

 「医療器具」と聞いて、「景気の波に左右されない」「コスト要求がそれほど厳しくなく、言い値で買ってもらえる」などと考えるのは早計だ。国民医療費が増え続けた20世紀の日本ならば、そうした面があったかもしれない。だが、日本の国民医療費は現在、抑制される方向にある。医療器具メーカーを取り巻く環境も基本的に厳しい。

 こうした状況下にあって、河野製作所はここ5年ほど、増収・営業増益を達成してきた。その「元気」の秘訣は、誰も手掛けない最先端分野の技術開発に率先して投資し、いち早く事業化してきたことにあると、河野氏は語る。

 例えば、血管や皮膚を縫い合わせるための縫合針。その中でも、顕微鏡を用いなければならないほど細かい外科手術(マイクロサージャリー)向けの微細な縫合針において、同社は2004年、世界最小となる直径0.03mmの製品を開発した。ここまで細い縫合針を造れるのは今のところ同社だけだ。

 縫合針が細くなると、手術の幅が広がる。例えば切断された指先を縫合する手術の場合、従来の縫合針では指先の関節部にある血管を縫うのが限界だったが、直径0.03mmの縫合針なら指の先端部にある細い血管でも縫い合わせられるという。

 縫合針の最大手は米Johnson&Johnson社だが、同社はここまで小さい縫合針は製造していない。市場規模が小さく、参入しにくいのだ。しかし、ニッチな分野だけあって利益率は高い。河野製作所がこうした分野にいち早く参入できるのは、医師をはじめとする病院関係者のニーズを常に発掘し続けていたからだ。

  とにかくやってみる

 河野氏によれば、医療器具の業界で河野製作所のように企画から販売まですべての工程を手掛けているメーカーは少ない。多くは、大手企業から言われたものを造る「下請け」だ。

 下請けが悪いわけではない。景気の良いときや業界全体が成長しているときなら恩恵を受けられる。しかし逆になった途端、たとえ質の高い仕事をしていても真っ先に壊滅的な影響を受けると、同氏は分析する。国民医療費が抑制されている中で同社が好調さを維持できているのは、自らが常に新しい市場を開拓しているからというわけだ。

 同氏が最も恐れるのは、好調な事業に甘んじて会社が新規開発の手を止めてしまうこと。従って、新規開発のPDCAサイクルが常に回り続けるよう、意識的に現場に働きかけている。

 そのためには「とにかくやってみることが非常に重要」(同氏)。開発に着手する段階で将来の採算を気にしていると、何もできなくなってしまう。そこで、初期段階では「患者のためになるか」「他社が手掛けていないか」といったシンプルな基準で開発に着手すべきか否かを判断している。同社は従業員数が110人くらいの企業だが、年間に着手する新規開発案件の数は10件前後、並行して走らせている案件の数は30件前後に達するという。

 一人の技術者が、医師などとの打ち合わせから製品の設計、製造設備の設計までを一貫して担当するのも特徴だ。世に無い製品を造ろうとするのだから、当然ながらそれを造るための製造設備なども存在しない。製造設備や冶具を一から造るのがほとんどだ。

 例えば前出の縫合針は、ステンレス鋼の線材を鍛造や曲げによって成形し(成形と同時に加工硬化させている)、先端部を削った後、後端部に糸を取り付ける。直径0.03mmという細い材料を加工する機械はもちろん、それを保持するための冶具などもない。このとき、製造という後工程を知っている強みが、打ち合わせや製品設計の場で生きると、河野氏は語る。「どう造ればよいか」を知っているからこそ、とっぴなニーズに対して「造れます」と言えるのだ。

 ただし、研究開発への投資は惜しまない分、事業化するか否かの判断基準は厳しく設定する。ここでの判断基準もシンプルだ。それはズバリ利益率。「たくさんの新規開発案件の中で実際に物になるのはほんのわずか。必然的に、事業化するものは収益性が高いものに絞らざるを得ない」(同氏)。

  不況はチャンス

 新規開発案件を求め続ける河野製作所からすると、先進国の日本は徐々に物足りない市場になっているという。「正直なところ、日本では新規開発のニーズは少なくなっている。現在は、開発型ベンチャー企業という在り方を維持するために、多少強引にでも新規開発案件を探している状況」(河野氏)。中国に進出するのも、新規開発のニーズを求めてのことだ。将来的にはインドも狙っている。

 今後は、開発体制を支える技術者の採用や育成が課題となる。景気悪化によって大手企業を中心に採用を控える動きが目立つ中、同社はむしろ技術者の採用を増やす予定だ。「投資も採用も、これまで常に逆張りでやってきた。大手企業が採用を控える今は、当社にとって大きなチャンスといえる」(同氏)。

 

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