医療用縫合針・縫合糸メーカーの株式会社 河野製作所 所在地:千葉県市川市曽谷 商品販売会社:クラウンジュン・コウノ CROWNJUN

お知らせ

平成23年1月1日(火) Fole2011年1月号

 技あり!トップ企業
  河野製作所
  【医療用器具の製造・販売】
「メーカーの存在意義は新商品開発だ!」世界最小0・03㍉の手術用針を実現

直径1㍉もない血管を1本ずつ縫合するような微小外科手術に必要な極小の針糸を開発・製造する河野製作所。
2004年には揖先の毛細血管の縫合も可能にした「世界最小の手術用針」を開発し、外科医療の進歩に大きく貢献している

高付加価値の手術用針糸分野で国内シェア60%

銀白衣に帽子、マスクを身に着けた女性中心の二〇数名が整然と並び、光学顕微鏡を覗きながら慎重に作業する。室内は大型のエアフィルターが何台も設置され、塵や境を排除したクリーンルームとなっている。
まるで研究室のような雰囲気の中で、肉眼では見えづらいほどの小さな針と細い糸を一体化した特殊な手術用針がつくられる。千葉県市川市の閑静な住宅街に建つ、河野製作所の工場だ。
「この小さな針糸は、毛細血管の縫合などマイクロサージャリー(微小外科手術) で主に使われています」と同社の河野淳一社長。医療技術が進歩した今日では、誤って手の指を切り落としても、手術で元どおりに接着できる。手術する外科医の腕だけでなく、血管や神経をつなぐ微細な針糸の品質に驚かされる。
河野社長は「手術に使う針糸は刃物と同じです」と言う。
「刻一刻を争うのが手術。針糸は血液や組織が付着した状態でも、血管の壁をスムーズに貫通しなければいけません。そのため、手作業で針をミリ㍍以下の血管も縫合できるようになった。微小な差の開発に見えるが、その結果、手術は飛躍的に進歩し、多くの患者が救われた。

心臓外科の分野でも「劣化しない針糸」を開発

河野社長はこう説明する。
「切断した指の手術では、それまでは関節部の動脈を縫合するしかなかった。でもこの針なら直径〇二ミリ㍍の血管も縫えるので、指の先端部を切断しても接着できる。切断個所に足の指を移植する場合でも、わずかな組織を切り取るだけで移植が可能になったのです」
世界最小の手術用針は形成外科や整形外科で主に使われている。このほか、同社は心臓血管外科で使用される針糸でも、治療を大きく進歩させる新製品を開発している。〇一年に国内で初めて導入した 「ポリビニリデンフルオライド縫合糸」だ。
それまで心臓血管外科の手術ではポリプロピレン製の針糸が使われていた。だが、河野社長は「その糸は劣化する恐れがあり、心臓血管を縫った後に再手術した事例もあった」と言う。同社は劣化しない新素材で針糸をつくり、治験と承認を経て世に送り出した。現在ではこちらの糸が外科医の支持を集めている。

「技術開発型ベンチャー」として医療現場のニーズをビジネスチャンスに

このように同社は医療の進歩に貢献する新製品で注目を浴びているが、河野社長は「大手企業が 『採算が取れない』と敬遠する市場に的を絞って開発した結果」と控えめだ。
しかし、単なるニッチ市場に単純に参入したのではない。世界最小の手術用針にしても、国内初の心臓血管の縫合糸にしても、同社は医療現場に生じたニーズを察知するやいなや製品開発に動き出し、その結果ニッチ市場そのものを自ら創り出している。河野社長は「メーカーが新製品を開発しなかったら、メーカーでなくなってしまう。当社は新しい市場を切り拓く『技術開発型ベンチャー』 でありたい」と、その言葉には力を込める。
戦後、計測機器用の針製造で創業し、一九六〇年代から手術用針に軸足を移した同社は、当初は全く開発型の企業ではなかったという。右肩上がりを続ける医療費のおかげで、一定の製品をつくれば売れる経営ができていた。しかし九〇年代半ばを過ぎると医療費削減、病院淘汰の流れへと状況が変わる。そのころ同社の後継者となった河野社長が改革の大ナタを振るうことになった。
「社員の平均年齢は五〇代と高齢化し、変化を嫌う空気が社内に漂っていた。世代交代するために親族の役員から定年退職として辞めてもらい、人事制度も年功序列から実力主義に改めて、新しいことにチャレンジする社風に変えていきました」
すでに同社の既製品は価格競争に巻き込まれつつあった。「開発型企業に変わるしか生き残る道はなかったのです」と河野社長は振り返る。

人材への投資を惜しまず永続的に新商品を開発する

現在では同社の平均年齢は三〇代まで若返り、九五%の社員が入れ替わった。ドラスティックな世代交代によって、新しい人材による新しい発想を社内の隅々にまで採り入れたことが世界初・国内初という新製品開発につながったのは間違いない。河野社長は「人材への投資は惜しまず、いい人がいれば積極的に採用している」と言う。最近では中国人やマレーシア人、帰国子女も多数採用している。
売上高も、九〇年代の苦境期の二倍以上、約一二億円にまで伸びた。毎年その一〇?一五%を、研究開発費に充て、次の高付加価値の新製品を生み出し、市場の支持を拡大する。
今も五、六件の新製品開発が進行中だ。河野社長はこう話す。
「独自の新製品を世に出しても、キャッチアップするところが出てくるかもしれません。その前に、私たちがまた新しい製品を開発します。
つねに医療と患者の近くで活動していれば、そこで必ず新しいシーズが見つかります。それを企画し、開発・製造・販売するサイクルをどんどん回していきます」
手術用針だけでなく、同社は〇九年、歯を矯正する器具も開発している。上海市には販売拠点を設立し、中国進出も狙う。
次々に生まれる新製品、新展開。ベンチャースピリッツのある日本企業が少なくなったといわれるなかで、創業六〇年を経た河野製作所はひときわ新鮮な存在に映る。

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