医療用縫合針・縫合糸メーカーの株式会社 河野製作所 所在地:千葉県市川市曽谷 商品販売会社:クラウンジュン・コウノ CROWNJUN

お知らせ

文渓堂 2014年(平成26年)3月10日(月曜日)

 メイド・イン・ジャパン世界にほこる日本の町工場2

  医療を支える町工場

血管神経を縫える 世界一細い手術針

 千葉県市川市の住宅地に、河野製作所という小さな工場があります。ここで世界一の製品が製造されているのです。それは、手術用に使う世界最小の針で、この開発で会社は世界的に有名になりました。

 針の太さは0.03mm、他のメーカーにはまねのできない超微細な手術針です。これまでは、0.1mm単位の細かい血管や神経、リンパ管の縫合手術(縫い合わせる手術のこと)は、手術針の方が太すぎて、手術することができませんでした。これらの手術が可能になったのは、血管などよりずっと細い河野製作所の手術針が開発されたからです。きっかけは、大学病院の先生からの、もっと細い針がつくれないかという要望でした。

 こうして生まれた極微細の針でこれまであきらめていた手術ができるようになり、医療の進歩に大きく貢献するようになったのです。

 

細い針にさらに細い糸をつける2つの方法

 0.03mmという超極細の針に、それより細い糸をつける技術。これこそが河野製作所がもっとも苦心したところです。針の太さが0.1mm以上なら、針にレーザーやドリルで穴をあけ、そこに糸を差し込むことができます。これより細いものは、穴をあけようとすると針自体がとけてつぶれてしまうのです。

 一度、ロボットを使えばと思い、やってみましたが、針がつぶれてしまい、うまくできませんでした。 

 そこで採用されたのが、レーザーによる穴あけ以前に行われていた“チャンネル・カシメ”という方法です。

 針を縦に割って糸をはさみ、サンドイッチのように包むという技術です。河野製作所ではこの技術を使い、顕微鏡で拡大して見ながら、0.03mmの針に手作業でひとつひとつ糸を通していきます。細かい仕事で、ほかではまねできない技術です。

 

細かい手作業を重ねて1本の針ができる

 心臓や脳の血管、細かい神経を縫うには、使いやすさだけでなく、安全でなくてはいけません。手術中に針が折れないために、強度と弾力性が必要ですし、糸が針からはずれないことも大切です。

 マイクロサージャリ―(顕微鏡による縫合手術)用の針を作る作業は、神経を使う作業です。微細な針のため、機械化ができず、人の手によってひとつずつ作られています。

 作業工程は、まず素材を針の長さに切断します。その後、穴あけ→針曲げ→熱加工→研磨→糸付けへと進み、検品後にパッケージします。

 0.1mm未満の針では、細くて穴あけができないので、針をつくってから、最後に針を縦に割り糸をはさみこみます。

 もっとも難しい0.05mm以下の針の製造では、針先の曲げ、手術で持つ部分を平たくつぶす作業、糸付けなど、わずかな狂いも許されません。

 マイクロサージャリー用の針は種類が多く、種類ごとに作り方が少しずつ違います。一人ですべて作るのではなく、工程ごとに担当を決めて作業します。以前はベテランの職人しかできない作業もありましたが、現在では研修がシステム化し、だれでも訓練すればひととおりの作業をこなせるようになっています。

 

一人で何でもできる環境がスキルを上げる

 河野淳一社長(株式会社河野製作所)

 1963年千葉県市川市生まれ。米国ボストン留学後、青山学院大学経営学部卒業。保険会社勤務を経て、91年河野製作所入社。98年河野製作所・代表取締役就任。

 

 会社の始まりは、祖父がそれまで勤めていた時計メーカーをやめて、計測機器用の指針を作る会社をおこしたことです。

 得意とする細かい技術を活かして、1964年から医療用具の製造を始めたのです。もちろん、当時は今のような微細な手術はほとんど行われていなかったので、国内では専用の針をつくる会社もなく、輸入品をつかっていたようです。

 1974年、マイクロサージャリー(顕微鏡による縫合手術)用の針を開発したのですが、なかなかその先には進めませんでした。というのは、それまでは0.5mm以上の針しかなく、それ以下の0.5~0.05mmまでの手術ができなかったのです。

 わが社の最小の針は直径0.03mm、長さでも0.8mmしかありません。この開発には3年かかりましたが、2004年に完成しました。これは大学の医学部の先生と一緒に開発したものです。

 ここまで細い針には糸を付ける穴をあけることができません。そこで採用されたのが、針を縦に割り、糸をはさむ方法ですが、その針を二つに割る機械をつくるのが難しかったのです。

 わが社の強みは、ほとんどの機械を自分たちで設計から製作まで行ってしまうことです。自分たちでつくったものなら自分たちで直せますし、なにより自社の技術が進歩するのです。これが会社の財産になったと思います。

 

日本女性は手先が器用

 本社工場では、多くの女性が働いています。神経を使う作業は、手先の器用さと忍耐力が必要ですが、この作業は女性にかなわないからです。日本の女性はこうした手作業では世界のトップだと思います。以前は難しい特殊技術でしたが、それでは職人が途絶えれば終わってしまい、引き継ぎもできません。そこで、教育のシステムを変え、だれでも一定の研修を受ければ扱える機械をつくりました。それによって、入社して3か月で一人前になれるようになりました。彼らはローテーションによって、だれもがどんな作業でもできるようになっています。

 

先端の医療技術を世界へ

 今はマイクロサージャリー用機器で開発中のものも多く抱えているので、他分野への進出にはまだ余裕がないのですが、例えば再生医療とか美容整形などはわが社の技術が活かせる場だと思います。

 また、医療の現場を世界で見た場合、まだまだまともな治療を受けられない人が数多くいます。医療器具が発達することで医療技術も向上し、こうした人たちに少しでも役立てることができるかもしれません。まだ小さい工場ですが、目標は常に大きくと思っています。

 

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