河野製作所グループ

沿革・受賞歴

日本クリエイション大賞2010 マイクロメディカル賞共同受賞

 外科手術の新領域を切り拓く日本のものづくり技術
 株式会社河野製作所殿

 顕微鏡をのぞきながら組織を剥離したり、血管や神経を縫い合わせる特殊な手術「マイクロサージャリー」。河野製作所は、時計や計測器等の部品を製造していたが、1964年にマイクロサージャリーの第一人者である玉井進医師から依頼され、手術用の針と糸の開発に進出した。
2000年、当時500ミクロン以上の血管や神経の手術は可能になっていた。50ミクロン以下は細胞レベルで外科の領域ではないが、50ミクロンから500ミクロンにかけては手術のできない、全く手つかずの領域だった。その年、秋に開かれた学会で、黒鳥永嗣医師(帝京大学医学部教授)から「もう少し微小な針がつくれないか」と声をかけられた。他の医師たちはそこまで必要ないと言ったが、医学的に価値があると考え、採算がとれないことを承知で挑戦することにした。同社では当時、定年退職する職人たちの技術の継承に悩んでおり、職人技に頼らない技術力の確立が必要だったことも、新たなチャレンジに踏み切った要因の一つだった。
開発は困難を極めた。今までの製法では作れないため、加工のための治具・工具を新たに工夫して作る必要があった。
針を加工しようとしても静電気でくっついたり、浮いてしまうため、弱粘性の樹脂の上に置いて加工するよう工夫した。素材についても、一般の手術用針に使うステンレスでは強度が維持できないため、剛性と粘り気を持つ特殊なステンレスをメーカーに開発してもらった。また、針だけでは手術ができないので、針を持つ器具やメス、はさみなども新たに開発しなければならなかった。開発にあたっては、経済産業省の産官学連携プロジェクトのスキームが構築され、顕微鏡の開発は、脳外科手術用の顕微鏡のトップメーカー三鷹光器が担当した。
こうして3年を費やし、直径30ミクロン、長さ0.8ミリ、糸の直径15ミクロンという世界最小の手術用針の開発に成功した。
この針のおかげで、乳幼児の細い血管など、太さ100ミクロンの血管の縫合が可能になった。たとえば、手指を切断により欠損した場合、その状態により目立たない足指から血管とともに皮膚組織を移植することがある。太い血管しか縫合できないと、太い血管の通っている足指の皮膚組織まで広範に切り取らなければならないため、術後に足指に不自由が生じるなどの後遺症が残ったりすることがあった。しかし、この微小な針によって、細い血管が縫えるようになったため、足指の皮膚組織の切り取る範囲が少なくてすみ、ほとんど手術の痕がわからない、後遺症の少ない手術が可能となったのである。
さらに同社では現在、手術支援ロボットを使った遠隔操作の手術にも使えるような針などを開発中である。30ミクロンの針を量産できるのは世界中で同社しかない。これまで日本国内のみで販売していたが、今後は海外の医師とのネットワークを広げ、中国やアジア、ヨーロッパなど世界で販売していくという。世界中の患者にとって福音に違いない。
日本のものづくりの強みである微細加工技術を活かし、創意工夫によって開発した世界最小の針は、外科手術の領域を拡大した。患部が小さく心身への負担が少ない手術は、患者の生活の質の向上に大きく貢献している。

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